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4.292023
『オース』 デザイナーズノート その9
■『オース』のローグっぽいカード
図注:大きな箱には大きな蓋が必要である。
『オース』のカード
今から数年前、真剣に『オース』に取り組み始めた頃、私はゲームに存在させたい物事のリストを作成しました。そのリストはすべてを含んだものとしてではなく、何が可能なのかを示す小さなサンプルとして作りました。ゲームのコアシステムが形を成してくるにつれて、それらの多くをシステムそのものに組み込めることが明らかになりました。それでもまだたくさんの項目が残っており、それがカードを作る際の開始地点となりました。
私はとても真剣にカードをデザインしています。柔軟性と表現力をもったカードリストを作り上げるのが私の望みで、様々な場面で、そして時には予期せぬ方法で使用できるツールをプレイヤーに提供するカードにしたいと思っています。そのため、連鎖コンボを考えてからそれを分解してカードを作るようなことは避けています。
良いゲームデザインに関する私の基準は、「ローグ」タイプと呼ばれるデジタルゲームのジャンルから来ています。高校生や大学生のころ、私はいつも『Ancient Domains of Mystery』をプレイしており、大学院では『Caves of Qud』やMichael Broughのゲームなど、このジャンルの新たな変種を追い求め始めました。そして、2010年代序盤にインディーゲームをプレイしていた人々と同じように、似たジャンルのゲームも山ほどプレイしていました。
このジャンルの魅力については、何時間でも語ることができます。しかしこの記事では、ふたつの要素のみを採り上げます。デザインの節約とシステムの柔軟性です。
デザインの節約に関しては、Michael Brough氏の『868-HACK』に優るものはないでしょう。
このゲームでプレイヤーが使用するのはわずかなボタンだけで、新たなる敵やパワーアップアイテム出現の不確実性以外の要素はすべて公開情報です。登場する能力も敵も比較的少ないのですが、Brough氏のデザインはシンプルな能力同士の相互作用を有効活用しています。たとえば、ある敵は他の敵のように毎ターン1ステップではなく2ステップ移動し、またある敵は他の敵のように破壊に1ヒットではなく2ヒットが必要となっています。これは、敵のバリエーションとしては大まか過ぎる設定のように思えますが、この差異だけで非常に豊かな戦術的状況が生み出せるのです。
私が望んだ次に重要な原則は、能力に柔軟性をもたせることです。『Caves of Qud』のようなゲームの(あるいは『Divinity: Original Sin』の1や2のようなものでさえも)プレイヤーは、システムがいろいろな方法で相互作用しているところに魅力を感じるのです。
『Caves of Qud』で、スライムのプールから湧いて出た巨大アメーバを殺したとしましょう。すると、私をめがけて押し寄せてくる小さな砂ネズミ戦士たちはそれで足を滑らせはじめるのです。洞窟の壁を這うトゲトゲの植物にそのまま突っ込むかもしれません。このゲームは様々なシステムが相互作用できるように設計されているのです。その作用が発生すると、ゲームが生み出す新たなストーリーは有機的に響き渡る素晴らしい手作りの物語となるのです。
ボードゲームはコンピュータゲームではありません。実現できないことはいくつもあります。これに関して最大の障害は、実はアナログとデジタルの間の差よりも、対戦型と協力型の差に起因します。『Dungeons and Dragons』で新興カルトに出くわしたとしましょう。パーティがその発見を理解するために、プレイヤーは時間を掛けられます。ゲームのペースは自由に調整できますから、GMはプレイヤーに合わせてゲームの進行速度を簡単に遅らせたり早めたりできます。しかし、対戦型ゲームでは時間の進行速度は固定され、GMではなく情報の伝達速度やターン構造といったものによって支配されます。
ですから、『Caves of Qud』のような面白い相互作用を詰め込んだ巨大で表現力に富んだシステムが作りたいのですが、私がデザインするゲームの領域はBrough氏の作品に近いものとなります。
カードをデザインする時は、それらをゲームのコアシステムに統合しようと努力しました。これまでの記事でお判りだと思いますが、カードは実際それに書かれている能力を別にしても多くの作用をゲームにもたらします。拠点に配置された各カードは募兵と影響力に関して基点となる可能性があります。いっぽう相棒として配置されたカードは、それぞれが6種類の住民とプレイヤーの友好関係を表し、国民の支持、そして重要な秘儀を学ぶために必要な政治的信頼をどの集団から得ているかを示します。カードのデータがカード種だけでも、『オース』のゲームはちゃんと動いたでしょう。しかし、ちゃんと動くだけでは不十分です。
『オース』のカードは、ゲームのコアシステムを操作するための第二の道具をプレイヤーに提供します。今回の記事の残りでは、『オース』に登場する4種類のカードについて、例を挙げて説明します。
プレイ時カード
『オース』のカードでは、「プレイ時」タイプのものがもっともシンプルです。ひとつの効果しかなく、それはカードをプレイした瞬間に発生します。
例として「A Small Favor」(日本語版では「小さな親切」)を見てみましょう。このカードは、プレイ時にプレイヤーの兵力を増強します。カード種のシンボルを囲む菱形は、このカードが相棒としてしかプレイできないことを表しています(この図形が長方形なら拠点だけ、丸なら両方にプレイできます)。訳注:『オース』日本語版では配置場所制限と除去禁止の表現方法が異なっています。
このカードを相棒としてプレイすると除去できないという点は重要です。これは『Pax Pamir』に登場する断ち難い同盟関係や、自分の宮廷にプレイヤーが抱く愛憎から思いついたものです。相棒に配置したカードのカード種は、プレイヤーの影響力と人気を決定するので非常に重要であるという点に注意してください。
(ルール/アクションへの)修正カード
ゲームの中心となる5種類のアクションを変化させたり、ターン中のあるフェイズに影響するカードです。この種のカードの中でのお気に入りは「Errand Boy」(日本語版では「使い走りの少年」)です。これによって、自分のいる地域ではない地域の捨て山からカードを引くことができます。コストの欄(テキストボックス左側)は、これを実行するためには信望1を消費しなければならないことを示しています。支払った信望はターン終了時にこのカードのカード種に対応するバンクに戻ります。
訳注:『オース』日本語版ではコストの表現方法が異なっています。
また「Magician’s Code」(日本語版では「魔術師の掟」)もお気に入りです。このカードは「大暗黒秘儀」を入手する魔術コストが2低いとみなすもので、プレイするための信望コストは高いのですが、これによって信望を魔術に転換できることを喜ぶプレイヤーは少なくありません。ただし、この交換はカード種「神秘」を強化しますから、他のアクションの効率や部隊強化の面で不利になるかもしれません。
訳注:『オース』日本語版では機能の表現方法が異なっています。また、魔術(magic)は秘儀(secret)に変わっています。
マイナーアクションカード
マイナーアクションタイプのカードは、カード全体の中で大きな割合を占めています。これらは手間がかからず、ターン中のアクション回数制限にも引っかかりません。いわばフリーアクションやボーナスアクションのようなものです。
中には、プレイヤーにメインアクションを与えるものもあります。例えば「Pressgangs」(日本語版では「強制徴募隊」)は、実質的には信望1と徴募アクション1回を交換します。それ以外にも、「Elders」(日本語版では「長老」)のように別のリソース獲得手段をプレイヤーに与えてゲーム本来の経済構造を変化させるものがあります。
訳注:「Pressgangs」は『オース』日本語版の「強制徴募隊」にあたりますが、能力は異なります。
戦争計画カード
最後のタイプは戦争計画カードです。実質的にはアクション修正カードになりますが、戦争アクション中の特定のタイミングでのみ使用するものです。ゲーム中に何度も戦争を行う予定なら、戦争計画カードの活用が成功の鍵となるでしょう。
このゲームを始めたばかりのプレイヤーが頭を抱えるであろう点のひとつに、戦争で勝利するためのコストが大きいことがあります。攻撃側は、たとえダイスの目がひどくても勝利を確実にするために部隊を犠牲にできますが、慣れないプレイヤーはこれを攻撃側が有利でコマの犠牲にはそれだけの価値があると考えてしまいがちです。『オース』では攻撃側に大きな有利があるのは事実です。しかし、犠牲を払いながら戦争を続けるのは災いの元なのです。
ゲームというものはすべて「競り」であり、『オース』もまたそうです。支払う通貨と得られるものが違うだけです。『オース』の戦争システムはクリアリングハウス・オークションの形式であり、プレイヤーはゲーム内のいろいろな「通貨」を支払います。信望は、戦争でのアドバンテージとなる部隊に転換されます。さらに防衛側は、追加のアドバンテージを得るために相棒カードを破棄できます(これは過去の優位を得るために過去のターンを犠牲にすることになります)。こういった犠牲は、とても高くつくのです。
それを回避しようとするのが戦争計画カードです。その働きを見てみましょう。
「Bear Traps」は条件付きの戦争計画カードで、基本的には条件を満たす状況が発生した場合にのみ効果を発生します。このカードの能力は次のようになります。「この戦争計画カードを発動するには信望あるいは魔術を1消費する。そして、戦争相手の中に獣族のカードが1枚でも含まれているなら、攻撃値が君に2有利になる」
このような条件付きの戦争計画カードは、ゲーム中にカード種の間に三すくみのような関係を生み出すカードです。
訳注:「Bear Traps」は『オース』日本語版の「熊罠」にあたりますが、能力は異なります。
そして、お分かりだと思いますが、戦争計画カードには条件付きではないものも存在します。
――Cole Wehrle 『オース』デザイナー日記より
訳注:記事に登場する『オース』のシステムは、現在発売中の『オース』のシステムとは一部が異なっています。
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