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『オース』 デザイナーズノート その10

■ボットのすべて

ボットに対する私の歴史

私はソロプレイヤーではありません。実のところ、私のやっているデザインのタイプとしても、プレイヤーとしての好みの面からも、ソロプレイには少し反感を持っています。不快というほどのものではなく、ゲーマーとしても制作上の目的としても、好みに合わないだけのですが。

ソロゲームがもつデザイン上の可能性についてはとても興味がありますし、ソロゲーム用エンジンの制作は好きです。その作業はゲームデザイン上の問題についてまったく別の方向から考えさせてくれますし、挑戦し甲斐があります。『オース』のソロモードも面白いチャレンジのように思えたので、作りたくなりました。

いくつかの教訓と基本原則

ボットに求めるものの優先順位が混乱していたのが一番の問題でした。『オース』のデザインはストーリーが最優先で、基本的にすべてのゲームメカニズムは物語のロジックに対応しています。これは私が最も気に入っている部分のひとつです。プレイテスターの会話を聞いたり、セッションレポートを読む際には、ゲームで起きるイベントやシステムがプレイヤーが語るストーリーの中にシームレスに溶け込んでいるのを見るのをとてもうれしく思います。『オース』のボットを作る段階でも、そのような会話が可能なようにしようと考えました。つまり、プレイヤーと同じやり方でゲームシステムと対峙するボットをデザインしようと思ったのです。

じゃあ、どんなボットなの?

『オース』のソロゲームと2人ゲームでは、宰相の役割を果たす自動化プレイヤー(ボット)を使用します。この自動化プレイヤーは、外部の脅威と内部の脅威に対処できるという点では『Pax Pamir』のWahkanに少し似ています。

そのため、ふたつのシステムで構成される単純な頭脳を作らなければなりませんでした。まず、戦略的優先度判定システムです。これはボットの選択肢を4種類の行動方針に分類するもので、毎ターン、プレイヤーはそのターンでボットが取る戦略を判定するための4回の条件判断を実行します。

図のテキスト

宰相の優先順位
名声が必要 誓言が必要 思想が脅威 安定
戦略
移動
アクション
ボットの行動はここに

 

重要なのは優先順です。もしボットの名声(最優先事項)が足りないなら、その問題を最初に解決しようと試みます。

ここで、デザイン上の大きな問題にぶつかりました。『オース』は巨大なゲームですから異なる勝利条件を管理することは人間プレイヤーにとっても実に難しいものとなっています。それが単純なボットでできるでしょうか! これに対処するため、ボットが誓言の条件を満たしていない時に選択される2番目の優先事項のための4種の行動方針を作成しています。これらの行動方針は、ボットが思想をもつプレイヤーに脅かされた場合にそれを阻止しようとする時にも利用されます。

すでにボットの思考に死角が発生し始めているのがお判りでしょう。複数のプレイヤーが思想の条件を満たしていたら? ボットがVPを山ほど獲得して誓言を保持する必要がなく、他のプレイヤーを妨害しているだけで勝ててしまう場合は? これはとても気がかりな点で、それに対応する策はまだありません。実はその答を見つけるのがこの計画の中でもっとも楽しみな部分です。

ではボットに用いるふたつ目のシステムに話を移しましょう。『オース』を『オース』たらしめるもののひとつに、ゲーム内で無数に生まれるカードの相乗作用があります。それらカードの能力がボットの手には負えないことに気付くのに時間は掛かりませんでした。簡単なことで、複雑な判断事項が多すぎるのです。

それでも、ボットにもいくらかは同様な力を使えるようしてカード種の変化に対応させたいと思いました。そこで、数か月前にコアシステムのデザインから捨てた要素、「関係トラック」を復活させることにしたのです。

図のテキスト

好き
嫌い

関係トラックのは次のように働きます。

各ターン、通常であればボットはカード1枚をプレイします。そのカードはデッキの上から引きます(思想カードなら捨てて引き直します)。カードをプレイしたら、そのカード種のマーカーを「好き」のほうに1マス進めます。その後、カードは可能なら空きがある拠点に追加します(宰相のいる地域の拠点、宰相の支配する拠点、任意の拠点という優先順位)。

ボットがカードをプレイしてそのカード種のマーカーが関係トラック上を移動すると、ターンの最初のフェイズでボットが獲得する収入に影響を与えます。これはボットの人気にも影響し、関係トラックがボット用の相棒エリアのように機能するのです。

戦争計画カードは少し異なります。それらがプレイされたら、プレイヤーはそのカードのシンボルから順に赤い矢印をたどって(図の左側)、関係(好き/嫌い)のない最初のカード種のマーカーを見つけ出します。そして、そのマーカーをは「嫌い」の欄へと移動させます。「嫌い」の欄にはそのカード種に対する戦争でボットが得る修正値が記されており、これによってボットは戦闘システムに関与して戦術的な特徴を生み出すことが可能になります。

ボットの成長

ボットシステムは通常のゲームに比べ無味乾燥に思われるかもしれませんし、実際そのとおりです。しかし重要なのは、ボットがゲームの重要な要素の多くに関与し、ゲーム世界の対戦相手としてふさわしいものであることです。ボットのデザインにおいてシンプルさを優先させているつもりはありませんが、プレイアブルなものにするために切り捨てた要素も多いのです。

そこで出てくるのが、今日の最後の話題であるボット設計の最後の要素、ボットの成長です。ボットはカード固有の能力を使用しませんが、自分のデッキが与えられます。そして今回のゲームで発生した出来事によって、ボットは次のゲームに適応するのです。それらは主にバフ(有利な修正)や特殊能力ですが、ペナルティの場合もあります。

これに関しては、このゲームの全体構造に助けられました。ボットは1~2ゲーム負けると強化され始めます。侵略者の軍勢のようなものです。こうなるとボットは自身を数ゲームにわたって勢力を維持し続けられるほどの状態になるでしょう。そうなったら、プレイヤーは名声の面でボットと戦わなければなりません。そしてもし帝国が内部崩壊したら、ボットは城門を守る戦士の代わりに内部に安全装置を用意するでしょう。

 

 

――Cole Wehrle 『オース』デザイナー日記より
訳注:記事に登場する『オース』のシステムは、現在発売中の『オース』のシステムとは一部が異なっています。

 

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