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『オース』 デザイナーズノート その7

■敵か味方か

変化の要因

『オース』は継続と因果関係のゲームです。
そのため、現在の支配階級を演じるプレイヤー(複数の場合もあり)が必要になると理解していました。また、そのようなプレイヤーの目的は、保守主義の立場からの優先順位に大きく影響されなければなりません。

最初、このプレイヤーの立場を大きな非対称性をもつものとして設計していました。各ゲームで1人のプレイヤーが支配階級を演じて、ゲームの警官役を務めます。そして他のプレイヤーは体制を覆そうとする追放者を演じます。『オース』の最初の4~5バージョンでは、この非対称性をもつシステムを使用していましたが、うまくいったものはありませんでした。

問題の中心はシステムの複雑さでした。デザインの初期段階で、複雑さの限度枠を『ルート』の派閥ふたつぶんと見積もっていました。カードをデザインしていた初期段階で、システムに含めたいカードのリストの草稿を作っていたと以前にここで書きましたが、そのころゲームの物語のスコープをスケッチした仮想的なセッションのレポートもいくつか書いていました。そこから全体を形作るシステムを作り始めたのですが、先の内容を扱えるデザインを作った時点で、根本的な非対称性の実現に必要な複雑さの限度枠は残っていなかったのです。そこで、連合体による支配階級役というアイデアが、先へ進むための明らかな道筋だと思われました。根本的な非対称性が無理でも、目的に非対称性をもたせるだけで、ふさわしい特徴をこのゲームに与えるのに充分な違いを生み出せるでしょう。

内なる戦いと外なる戦い

『オース』には、市民と追放者という二種類のプレイヤーが存在します。
どちらも基本的には同じルールを使用しますが、異なる最終目標を目指します。追放者はふたつのどちらかの方法でゲームに勝利することを目論むことになります。市民側と直接対峙してより多くのVPを獲得するか、あるいは前回お話しした思想カードの条件を満たすかです。

市民側は全員でVPを獲得します。つまり、市民側プレイヤーは駒を共有し、チームとして誓言の条件達成(それによるVP獲得)を目指します。しかし、市民側が勝利したとしても、勝利するプレイヤーはその中で最も名声を得た1人だけです。つまり、市民プレイヤーにはふたつの勝利が必要なのです。ゲーム終了時に市民側が勝利できるだけのVPを獲得するとともに、市民側のプレイヤーの中での名声レースにも勝たなければならないのです。

理論上、このシステムは私が望んだことをすべて満たしてくれるようでした。市民側は常に多くの悪役を抱えることになるので、追放者が数的に劣勢だと感じることを心配はしませんでした。そして市民側のプレイヤーは、味方を出し抜いて名声を生み出すエンジンを構築することをためらうでしょう。他の市民側プレイヤーに対して不動のリードを築いた瞬間、味方は市民側という立場をかなぐり捨てて新たな勝利の道筋を追い求めはじめるのですから。

ところが、このアイデアにはデザイン上の問題が山積していました。最初は、名声レースのほうが基本的にわかりやすく、プレイヤーは選択肢をよりよく理解できるだろうと考え、全プレイヤーが市民としてゲームをスタートする予定でした。しかし実際には、名声レースは、新しい思想カードによってテーブルをひっくり返そうとするよりもずっと複雑だと判ったのです。追放者プレイヤーの役割は実に単純で、思想カードか誓言を見つけてその指示にひたすら従うだけなのです。それとは対照的に、市民プレイヤーはゲーム内の動機付け構造を注意深く見極めなければなりません。市民プレイヤーにとっての良き同志とは、自分が名声レースで勝てると確信しているプレイヤーであり、つまりは他の市民プレイヤーにそう思わせることが良い市民プレイヤーなのです。たとえ名声の獲得手段がとても単純であるとしても、これにはデリケートなバランスが必要です。

その秋、ショーを転々とするうちに、私は市民と追放者の対立がプレイヤーを悩ませていることに気付きました。既にこのゲームは全員が追放者であっても面白いものになっていたのです。もしかすると、それが私が必要としていたすべてだったのかもしれません。感謝祭の前にツインシティ(セントポール)に戻った私は、チームのグラフィックデザイナーの1人であり同時に優れた開発者でもあるNick Brachmannと、このデザインについて精査しました。そんな中、Nickは私を見てはっきりと言ってのけたのです。これが外部からの持ち込みだったなら「市民側をゲームから取り除け」と言っただろうね、と。

この評価には同意したものの、私にはまだこのアイデアに未練がありました。市民側はテーマ上の、そして構造上の緊張を生み出すために存在するのです。問題は、単にその緊張を提供できていないことでした。だからこそ、余計なものにしか見えないのです。もう一工夫が必要でした。

そこで私は、初期に捨てたプレイヤーの立場の非対称性に立ち返りました。完全な役割システムではなく、プレイヤー1人が市民の役に固定されるゲームにはできないかと考えたのです。
テーマ上、これは合理的だと思いました。前回のゲームで勝利したプレイヤーが次のゲームの支配者になるのだとずっと考えていたのです。もちろん、同じ人間がその役割を継続しなければならないという意味ではありません。

『オース』はプレイヤーに役割の継続を強制しませんが、少し連続性があるのも悪くないでしょうし、プレイヤーは勝利者の地位を守りたいものです。そこで、選択肢を奪う代わりに、勝利プレイヤーだけが利用できる特別な能力のセットを考え始めました。そのプレイヤーは「宰相」と呼ばれることになります。

王様万歳!

宰相は『オース』の鍵です。当時はこのことに気付かないまま、このアイデアを何か月も考え続けていました。デザインの中核となるものが出現するのがこれほど遅くなるというのは変に思われるかもしれませんが、実際にそうだったのです。では宰相の役割を説明しましょう。

ゲームの開始時に、1人のプレイヤーが宰相に選ばれます。実質的に宰相は前回のゲームの勝利者の後継者であり、勝利者の拠点と資材をすべて所有し、マップ各地に守備隊を配置した状態でゲームを始めます。そのため、前回のプレイヤーがこの役割に就くのがテーマ的には道理にかなうのですが、デザイン上はそこまでの継続性を要求しません。

宰相は市民側としてスタートします。他のプレイヤーはすべて追放者です。市民側のプレイヤーはすべて同色のコマ(おそらく紫色)を使用し、追放者は自分の色のコマを使用します。市民はターンあたり2アクションですが、追放者は3アクションです。基本的に、ゲームプレイ上の違いはこれだけです。

ただし宰相は特別で、ユニークな能力をいくつか与えられています。まず、宰相は市民側に完全に忠誠であり、決して追放者にはなりません。次に、宰相はボード上の警官役であり、守備隊によって戦闘を開始することができます。さらに、宰相はゲーム世界の住人達に恐怖心を抱かせるため、他のプレイヤーは宰相のコマがある拠点では部隊を召集できません。これらの能力はどれも重要ですが、宰相のもつ最大の能力の前では霞んでしまうでしょう。その能力とは、追放者への市民権提供です。

宰相は自分のターンに、任意の追放者プレイヤーに対して市民権の提供を提案できます。提案には、信望や魔術、そして何よりも重要な名声の譲渡を含めることができます。この提案を受け入れた追放者プレイヤーはプレイヤーボードを裏返して市民の側を表にし、コマをすべて紫のコマに入れ替えます。この時点から、そのプレイヤーは宰相と同じくターン中に2アクションしか行えなくなりますが、多くの新しいカード能力と新しいリソースの利用権を獲得します。新たに市民となったプレイヤーのVPマーカーはVP記録トラックから取り除かれ、名声トラックの特定のマス(宰相が提供した名声の値による)に移動します。宰相も提供した名声の値だけ自分の名声トラックのマーカーを修正します。これにより、名声レースに関して新たな市民が宰相よりも優位に立つこともあり得るのです! 市民側が勝利すれば勝利プレイヤーは名声レースで決まるのですから、そんな真似をする理由なんてあるのでしょうか?その理由としては、名声ポイントを獲得する手段が多岐にわたるということが挙げられます。市民側プレイヤーは信望を消費する、魔術を使う、あるいは新たな拠点に兵を送ることで名声を獲得できるのです。さらに、名声ポイントを得る手段を新たにもたらすカードもデッキに存在します。そういったカードも他のカードの能力と同様、「相棒」*1のエリアに配置すれば自分だけが使えるのです。宰相は永遠に市民側ですから、新しい市民というライバルに名声レースで先行されることになったとしても、市民側が勝利するためであれば「そんな真似」をする理由となるはずです。

また、宰相は市民を追放する能力も持っていますから、心配には及びません。各プレイヤーは人気という値を持っていますが、宰相は市民プレイヤーの人気に等しい名声を消費すれば、市民権を奪ってそのVPを0に戻し、迫る脅威を取り除けるのです。これはその元市民にとって大打撃となるでしょう。ただし、市民のほうも相棒を注意深く選んで大衆が嫌がる行為を控えることによって人気を上げ、追放から身を守ることが可能です。

これらによって、プレイヤーにかなりの権限を持たせるのに充分なだけの自由度を保ちつつ、構造化された政治ゲームに私のお気に入りである外交的緊張を生み出せるシステムとなりました。

 

――Cole Wehrle 『オース』デザイナー日記より
訳注:記事に登場する『オース』のシステムは、現在発売中の『オース』のシステムとは一部が異なっています。
*1 相棒(Cohort)は日本語版の「助言者」に相当します。

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