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『オース』 デザイナーズノート その6

■オースとヴィジョン

道徳とゲームデザイン

『オース』の各勝利条件は道徳観の主張です。ああ、これじゃちょっと大げさかな。価値観の主張と言った方がいいかも。これらはデザイナーの価値観、マーケッティングチームの価値観、あるいは特定のグループがもつ価値観を反映しているかもしれません。また、勝利条件はゲームの中でプレイヤーに指針を与えます。ゲームを作る時に、デザイナーはふたつの重要な決定を下さなければなりません。ゲーム世界でプレイヤーは何者なのか、そしてプレイヤーは何を目的とするのかです。

ゲームは常に勝利条件が中心となります。私の作品では、私が語りたいストーリーにふさわしい勝利条件を設定することにベストを尽くしています。これは、良くない結果をもたらすメカニズム(例えば『John Company』の消耗ダイス)になることもあれば、長すぎる激しい対立になることもあります。

プレイヤーが演じる人物が現実の歴史で受けていた圧力を理解させつつゲームの限界を設定する、そういった勝利条件を私は気に入っています。それによって、プレイヤーはその人物への共感をもつことになるでしょう。しかし、それよりも私は、歴史の渦に飲まこまれた多くの人々に対する広い共感、そして理性的であるはずの決定の連鎖が完全な道徳的崩壊をもたらしてしまうことをプレイヤーに知ってもらいたいのです。

『オース』の制作を開始したころ、まだそれがゲームのかたちになる前に、勝利条件をだいたい決めていました。その主な理由は、時間の経過、そして正当性の要求は世代とともに変化するのだというこのゲームの最も中核となる主張に対し、勝利条件は直接結びつくからです。

世に出ているゲームの大多数(私の作品のほとんども含まれます)は、ひとつの勝利条件を巡って展開します。他に失敗条件があったり、奇妙な非対称性の勝利条件をもつものもありますが、ほとんどのゲームで、プレイヤーはひとつのゴールを達成することを目指します。ゴールはプレイヤー共通だったりプレイヤーごとだったりしますが、それは大した問題ではありません。プレイヤーはゴールがずっと変わらないことに依存して、ゲームの中で挑戦を何度も繰り返すのです。

正当性は、勝利条件が表すものをよく表現する言葉だと常に思っています。遊んだのが『Greed Incorporated』であろうが『Modern Art』(モダンアート)であろうが、結局のところプレイヤーが追い求めるものを表すのに最も適した単語はおそらく正当性でしょう。同時にまた、正当性の定義はあいまいなものであるという点も認識しています。

『オース』はこのあいまいさを受け容れています。正当性が意味するものは、時代が違えば異なりますし、人によっても異なります。それを煮詰めると次のようになります。

『オース』では、主な勝利条件を設定するタイル1枚が各ゲームに登場します。『Pax Porfiriana』の「体制」(regime)とは違い、ゲーム中にそれが変化することはありません。しかし、そのゲームでどうやって勝利がもたらされたかによって、次のゲームでは変化する可能性があるのです。それらを『Pax~』で使われたような規定された「風潮」(climate)や「体制」ではなく「誓言」(Oath)と呼ぶ理由はそこにあります。誓言とは、ゲーム世界の住民が果たされることを望む約束であり、それをどのように達成するかはプレイヤー次第なのです。これは社会契約説に対する私のささやかな同意の表れです。

図注:今回はプロトタイプのカードが多くてごめんなさい。最終段階まではまだまだ遠い!

『オース』には誓言を表す次の4枚のカード(日本語版では「目標タイル」)があり、それぞれが異なる種類の正当性を表します。「覇権の誓言」(帝国、征服)、「人民の誓言」(市民の支持、民主主義)、「保護の誓言」(王朝、保守主義)、「献身の誓言」(知識、秘密保持)。これは、『オース』のコアデザインの中に四つの勝利への到達方法が存在するということを表しています。「覇権の誓言」は支配する拠点が最多のプレイヤーに報酬を与え、「人民の誓言」はもっとも国民の支持を得ているプレイヤーに報酬を与えます(支持はそのプレイヤーの支持者とそれらに関連する能力の関数として算出されます)。残りのふたつは、両者ともゲーム中に入手および争奪が可能な特権を所有するかどうかで判定されます。

各誓言は、それぞれがコアゲームの完全な一側面となっており、付随する戦略とそれへの対抗戦略も備えています。圧倒されてしまいそうですが、ありがたいことにゲームにはそのうちのひとつしか登場しませんので、新人プレイヤーでも少し気圧されるだけでしょう――最初の思想カードを引くまでは。

 

思想カード

前回、デッキの上半分に混ぜられる5枚の特殊なカードに触れました。それが思想カードです。プレイヤーが思想カードを引いたら、その事実を宣言しなければなりません(このとき「思想を得たぁ!」と大声で宣言すればボーナス得点です)。これによってペナルティトラック(思想トラック)が調整されて、それ以降にメインデッキからカードを引くためのコストが上昇し、したがってゲーム内に流通するカードの枚数を制限することになります。

しかし、思想カードはデッキ消費を制限するだけではありません。思想カードによって、プレイヤーはそのゲームで適用されていない誓言の勝利条件にもアクセスできるのです。思想カードを引いたら、それが与える新しい勝利条件に挑むため公開するか、あるいはその意図を隠して裏返しのままで保持する(実質的には手札に納めることになります)ことができます。ただし、策略を巡らそうとするプレイヤーにとっては不都合なことに、思想カードは裏面が他とは異なっています。ですから、思想カードを保持したままのプレイヤーは対戦相手には革命を起こす可能性ありと目を付けられることになるでしょう。

思想カード5枚のうち4枚は、4種類の誓言をそのまま反映したものになっていますが、報酬は即効性です。たとえば「叛乱の思想」を公開しているプレイヤーは、(すでにゲームに3枚の思想カードが登場しているならという条件付きで)自分のターンの最初に国民の支持が最多なら勝利します。

5枚目の思想カード「陰謀」は、実は思想ではなく、1回限りの即効薬です。このカードをプレイしたプレイヤーは、同じ拠点に位置する他のプレイヤーから「大暗黒秘儀」あるいは「王室の恩恵」のどちらかの特権(*1)を奪うことができるのです(「陰謀」は箱にしまいます)。特権には勝利条件に関係する点以外に他の利点もあるので、初期から確保を目指すプレイヤーも多く、勝利条件に関係するしないにかかわらず毎回争奪戦となりがちです。
勝利へと向かうすべての道筋をゲーム中に追うことには、たとえそれがそのゲームの勝利への道筋ではなかったとしても、総合的な利点があります。各勝利システムは互いに複雑に絡み合っているので、そうすることによって他への妨害と自分の基盤拡大が楽になるのです。
思想カードは同時に、警官の苦悩という古典的命題の舞台も用意します。先行した者は、潜在的ライバルを撃退しつつ、別の勝利条件から脇を守らなければならないのです。ゲームが進むと登場する思想カードも増え、各プレイヤーは勝利のためには望みの少ない道筋を模索し始めるでしょう。これは『ルート』の猫野侯国プレイヤーにはお馴染みですが、『オース』では警官となるプレイヤーがゲーム中に変化します。王冠をいだく頭は重いのです。

 

勝利の影響

誓言と思想のシステムによって、感情にあふれた終盤戦が生み出されます。これはプレイヤーの選択に適応するゲームを制作したい時にとても役立ちます。基本的に『オース』には3種のゲーム終了方法があります。それぞれの方法が、次のゲームの変化に影響します。
まず、思想カードの条件達成による終了です。『ルート』では、ゲームの15%が圧倒カードによる勝利で決着します。しかし、思想カードによる勝利は、特にプレイヤー数が多い場合にもっと多くなります。思想カードによって勝利すると、次のゲームはその思想カードと対応する誓言のもとにプレイすることになるでしょう。道理は実に単純です。大草原から死の教団を作り上げたプレイヤーがゲームに勝利したら、次のゲームにはその教団の掲げる道理、「献身の誓言」が登場することでしょう。また、各思想カードは全ゲームに登場しますから、偶然にも現時点での誓言と対応する思想カードによって勝利した場合には、次のゲームの勝利の手段は変わらない点にも注意してください。
二番目は誓言タイルによる勝利です。この場合、現在の誓言は「時代遅れ」となり、次ゲームの誓言は順次置き換わります(保護→人民→覇権→献身→保護)。これは一般的な思想の変遷を表しています。最後は、市民側(市民の連合軍)が支配階級の団結を維持したまま誓言の条件を満たすことによる勝利です。この場合、誓言は変化しません。これは、市民側の保守派が、国家と国家内の野心を安定させることに成功したという意味です。この、市民側の団結を維持するというは極めて厄介な仕事で、市民側の動きと宰相が抱える頭痛の種については次回にお話ししましょう。

 

――Cole Wehrle 『オース』デザイナー日記より
*1 日本語版でこの記事(プロトタイプ版オース)の特権にあたるものは「大暗黒秘儀の旗幟」(Banner of Darkest Secret)と「人民信望の旗幟」(Banner of the People’s Favor)ですが、両者とも機能は大きく変化しています。

 

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