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4.152023
『オース』 デザイナーズノート その5
カードと連続性
私の作ったゲームのほとんどがカードを多用していますが、『オース』のような使い方をするものはありません。
『オース』のカードに関して語る時に発生する問題点のひとつは、それらいくつもの作用を持つことです。ゲームのタイマーであり、ルールへの修正であり、能力であり、資産であり、イベントであり、さらには完全な策略でもあるのです。このゲームのカードリストは私が『Pax Pamir』に組み込んだものの2倍以上ですし、数え方によっては複雑さにおいて3倍とみなせるかもしれません。しかし同時に、個々のカードはより単純になっています。
カードの話で困るのは、絡み合って濃密に結びつけられたシステムをそれらが修正する点です。普通であれば最初にそのシステムに付いて触れるべきかもしれませんが、まずはゲームでのカードの基本的な動きと使用法に付いて説明しておかないとシステムを論じても意味がありません。動きと使用法というふたつの要素は、どちらも『オース』が私に課した要求への回答です。私はこのゲームがある種のストーリーを物語れるように望み、それを可能にするために全ゲームシステムが一から作り上げられました。つまりは、そういった大きな意図がゲームメカニズムに厳しい要求を課したわけです。それを表現する要素として、カードの使い方以上のものはないでしょう。
デザインに関する多くの考え方と同じく、カードの使用法に関する思考が本格的になったのは、『Pax Porfiriana』と『Great Zimbabwe』の二作品が私のテーブルで競い合っていた2012年のことでした。両者はカードで何ができるかという点に関する私の見解に挑戦するものでした。どちらのゲームも、プレイしたカードがゲームにおける「スペース」に変わります。1回のゲームで登場するカード枚数は少ないものの、プレイに出たカードによってゲームの様相が大きく変化します。
『オース』のカードを制作する早い段階から、非常に表現力のあるコアシステムが必要だと判っていました。そのために、カード1枚やコアシステムのひとつを使うことで出現させたい「出来事」を20ほどリストアップしました。宮殿でのクーデター、驚くべき発見、経済不況、カリスマ的救世主による反乱といったものです。そして『オース』の作業を繰り返すうちに、ゲームの言語としてこれらカードがどう表現されるかを試す機会が訪れます。もし細かいルールや例外処理が積み重なってテキストが判りにくくなっているなら、作ったシステムが私に正しい語彙を提供できないということになります。そうなれば、たとえその適用効果が面白いものであったとしても(実際、多くがそうでした)ゴミ箱に直行となりました。
カードに複数の用途を持たせたことに驚く人はいないでしょう。基本的なデザインは『ルート』のカードに似たものになっており、基本的にそれぞれのカードに効果ひとつとカード種ひとつが与えられています。カード種は、それぞれが異なる社会とその近隣集団の文化的側面を表しており、「秩序」「家庭」「不和」「神秘」「獣族」「放浪」の6種類です。
この多彩な表現は、ゲームにおいてはデッキが主要かつ最もきめ細かい記録システムだから必要となりました。その働きは次のようなものです。
ゲームの結末にしたがって、200枚ほどの巨大なライブラリの中から新たなカードがデッキに投入されます。例えば、主として「神秘」に属するカードに頼ってゲームに勝利したなら、「神秘」のカードがさらにデッキに追加されることになります。同時に、ゲームの捨て山に移されたカードがゲームのカードローテーションから抜けて脱落していきます。数ゲームも経ると、デッキは予想もできない方向に変化し、それまでプレイヤーたちが共同で作り上げた歴史に対応した新しいゲームが生み出されることになるでしょう。
ここで少しばかり算数が登場します。私は各カード種に対して、その文化的側面の定着(あるいは堕落)を表す4組のパケットを用意したいと思いました。各カード種にパケット4組があれば、デッキを大きく変化させるに十分なブレが生まれます。プレイヤーは脱落したカードをローテーションに戻せますから、これによってゲームが固着することはありません。ということで、6(カード種)×4(カード種ごとのパケット数)×8(パケットあたりのカード枚数)=192、これに開始カードとして50枚ほど加えれば、カードは250枚近くになりますね。マジかよ。
カードリストの長さも問題ですが、他にも(実はもっと大きな)問題があることが判明します。『オース』ではある程度、歴史が消失していくようにしようと思いました。あるゲームで、それまでの数ゲームでは姿を見せなかったカードが登場するでしょう。そして、また数ゲーム後に、文字どおりゲームの遺物がまた姿を現すでしょう。
図注:『Pax Porfiriana』を何十回もプレイしないとソノラ州が独立を宣言するチャンスは訪れないかも。
『オース』の1ゲーム全体で使用するカードは20枚だけに留める必要がありました。非常にカード枚数が多いことを売りにしたいゲームとしては、これは非常に少ない枚数です。一方で、ゲームが作る物語のサイズに関して考えると、これはいい枚数です。プレイに出るのが20枚で、そのうちの12%がゲームごとに入れ替わるなら、ゲームの様々なキャラクターや変化と有意義な関係をプレイヤーは築き上げることができます。世界は変貌していきますが、そのペースはプレイヤーにとっても好ましいものとなるのです。
この頃、『Pax Pamir』の古い原案を調べていて、自分が2013年か2014年に捨てたアイデア「共有タブロー」を発見しました。原案の『Pax Pamir』にはプレイヤーのプレイヤーのタブロー(カード配置場所)が存在せず、その代わりにプレイヤーがカードを追加できるタブローが連合ごとに用意されていました。それらのカードは、所有するプレイヤーと連合プレイヤー全員の支配下となります。
この「共有タブロー」システムは『オース』によく適してます。なぜなら、『Race for the Galaxy』のように個人個人が大きなタブローを所有するシステムよりも必要なカードが少なくて済みますし、さらに互いを利用し合える余地とインフラをプレイヤーに対して提供したいという私の希望によく一致していたのです。
『オース』のカードはゲームの世界にプレイされ、拠点に留まります。拠点を支配するプレイヤーにとっては、そこにあるカードが実質的に自分のタブローにあることになります。しかし他のプレイヤーも、その拠点を訪れることによって、そこにあるカードを支配者のように使用できる点が重要です。さらにこの共有タブローを補完するかたちで、各プレイヤーは自分自身用のとても小さいタブローを所有します。さらに、10枚以下のカードを公開状態で保有することは、頭の中に留めておかなければならない情報量に対するプレイヤーの快適さの面において、偶然にもうまく作用しました。
『オース』には6タイプのカードが存在します(先ほどの6種類のカード種とは別です)。ゲームの中心的ルールを変化させるカード、プレイヤーに特定の戦闘ボーナスを与えるカード、プレイヤーに新しいアクションを可能にするカード、中には新しい得点手段を与えるカードまでありやがります。カードの能力は文脈に大きく依存しています。多くのカードは全プレイヤーが所有を争うことが可能な共有タブローに置かれるので、カードの能力に関しては厳格にバランスを調整したカードリストを作るよりも、表現力が豊かな面白い能力を設定することを優先しています。基本的な枠組み、そしてカードの能力とスケール感が決まったので、コンセプトを実証するためのゲームを制作する用意がほぼできました。しかし、まずはカードのフロー(動き方)を作らなければなりません。
最初、私は捨て山を多用しようと考えました。デッキから何枚か引いて、そこから1枚を使い、残りを捨て山に移します。ここで重要なのは、その捨て山からもカードを引くことができる点です。そしてこの捨て山から引いたカードは第二の捨て山に捨てられ、以下同様に繰り返します。これによりカードは循環し続けます。でもこのシステムには物理的制限がないので、すぐに半ダースほどの捨て山が出現してしまいます。それに加え、カードを捨てた後すぐに捨て山を漁ってそれを回収できるので、カードを選ぶことの重要性が低くなってしまいます。引いた4枚のうち2枚が欲しければ、捨てたカードを別のアクションで拾えばいいのですから。
この時点でゲームマップのかたちが定まりつつあり、全部で3地域になりそうでした。各地域はプレイヤーが移動できる拠点をいくつか含みます。地域が3あるということが新たな指標となり、次のような捨て札の流れを作りました。中央の地域で引いたカードは隣の地域の捨て山に捨て、後背地にいるならカードは中央の地域の捨て山に捨てます。これでゼロ・サム(カードの総数が変わらない)ループの完成です。山札と同じように各捨て山からカードを引くことはできますが、捨て札はすべてこの捨て札フローに従うことになります。
後背地の捨て山 諸州の捨て山 揺籃の地の捨て山
しかしこれでカードのフローに関して新たな疑問が生まれました。ゲームに使うデッキが50枚だとして、プレイヤーはカードをデッキから引けるのにもかかわらず捨て山から引こうとするだろうか、という点です。デッキを半分以上「掘る」のをプレイヤーにためらわせる障壁をデザインする必要ができたのです。
そこで、デッキの上半分に特殊なカード5枚を混ぜ込むことにしました。それらのカードがゲームに登場した枚数に従って、デッキから引くアクションに対するペナルティが増加することをプレイヤーは意識しなければならないのです。一方で各地域の捨て山から引く場合にはその危険性がありません。実際のゲームでプレイヤーは、序盤には10~20枚のカードを流通させるでしょう。そして、それ以上カードをデッキから引くことに対する障壁が十分に抑止効果をもつようになって、捨て山からカードを探すことで満足するようになるでしょう。
この障壁が、ゼロ・サムのカード経済をゲームにもたらします。カードは実際にゲームから離れることなく、その代わりに次から次へと場所を移動していくのです。『Pax~』タイプのゲームでは、プレイヤーに対して新しいカードを次々に突き付けますが、『オース』は、ゲームからゲームへとプレイヤーの下した決定によって変化する、再登場をうかがうものと顔馴染みがいり混じったカードプールを提供するのです。
カードの循環を生み出すこの5枚の特殊なカードは、ゲームの勝利判定システムにカードプレイをうまく噛ませてゲームの勝敗に適応させることも可能にしてくれました。これについては次回にお話ししましょう。
――Cole Wehrle 『オース』デザイナー日記より
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