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ラブレター

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『ラブレター』10回目の誕生日おめでとう!

 今日からちょうど10年前の2012年5月13日、当時は誰も予想していなかったとても小さな出来事。今やボードゲームの世界に大きな影響を与えることとなった『ラブレター』が誕生しました。

ビフォー『ラブレター』

 当時カナイ・セイジ氏は既に、日本のアマチュア・ボードゲーム界で活躍をしていました。カナイ製作所としての処女作は、ラブレター誕生のさらに10年前となる「コミックマーケット2002夏」へ出展した騎竜レースゲーム『Dragon Rush!』。実は今年は、カナイ氏デビューの20周年でもあります。

 2006年には最初の完成形ともいえる『いばらの姫と4人の騎士』が出版されます。『ラブレター』と同じく、イラストは杉浦のぼる氏。とても可愛い、ゲーマーの心をわしづかみにするようなテーマとパッケージです。

 いばらの姫はいきなり城から出奔します。騎士たるプレイヤーたちは、その姫からの無理難題なおねだりに応えながら、あちこちエスコートしていきます。おねだりを3回解決できた者が優勝!

 そして2008年、同年に出版された『イカサマージ!』とともに、『いばらの姫』は世界最大のボードゲーム見本市たるエッセンシュピールに出展され、世界デビューを果たしました。

『いばらの姫と4人の騎士』(2006版)

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『いばらの姫と4人の騎士』(2006版)

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ワン・コインゲーム

 これらのゲームには、プレイの人数制限からユーザーを限定してしまったかも、という反省点もありました。『Dragon Rush!』は4~5人、『いばらの姫と4人の騎士』は4人専用、『イカサマージ!』は4~6人推奨になっていて、プレイヤーが2~3人の時には困ってしまいます。

 そんな中、契機となったのはゲームマーケット内の同人企画で「500円ゲーム」というプロジェクトが実行された2010年でした。コンポーネントばかりリッチになる傾向だったアンチテーゼとして、「最小限のコンポーネントとアイディアだけで優れた作品を見いだそう」というコンセプトに共感したカナイ氏は、それから毎年カード16枚という制限の中でゲームを出し続けることとなりました。

 『RR』は、カードを駒のように3×3のフィールドに順に配置して勝敗を競います。後に株式会社ワンドローから『RRR』としてリメイクされ、アブストラクトゲームが好まれるフランス、イタリア、スペインでも出版されました。

 『R』はHP(ヒットポイント)がある2人専用『ラブレター』とも言え、こちらは株式会社キュービストより『R-Rivals』および『ストリートファイター ライバルズ』としてリメイクされました。海外では『Braverats』として、英語やドイツ語版は勿論のこと、10か国語での展開がなされました。

『RR』(2010版)

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『RR』(2010版)

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16枚だけなのに可能性が更に広がる?!

 『RR』『R』の成功を受け、同様の世界観を思わせる杉浦のぼる氏のスタイリッシュな絵で仕上げられた『ラブレター』は、同じ16枚というコンポーネントにもかかわらず、2~4人でプレイできるように仕上がっていました。5分で素早く決着がつき、誰でも簡単にルールを覚えられる傑作の誕生です! そんな『ラブレター』のお披露目となったゲームマーケット2012春に、AEG社長ジョン・ジンサー氏が視察に訪れていました。そしてカナイ製作所のブースで軽く説明を受けただけで「全世界版の権利が欲しい」と絶賛し、出版が決まったのです。

 同年10月、AEGはドイツのエッセンシュピールで英語版を発売し、「16枚でこんなに面白いゲームが作れるなんて!」と、一気に注目を浴びました。多くのゲームが肥大化・長大化していた世界に一陣の新鮮な涼風をもたらし、『ラブレター』を表現するために「ミニマル・ゲーム」という新しいジャンルの呼び方が作られたのです。

 この10周年の特設サイトにも、ボードゲームの長い歴史に巨大なマイルストーンを残したことに対する賞賛の言葉が、たくさん寄せられています。

 根本のゲームシステムが極めて洗練されているからこそ、その後大勢のデザイナーによって、カードやルールが加えられたり、さまざまなフィクションの世界へと展開を見せていきました。封筒に入っていた、たった16枚の『ラブレター』から始まった物語は、このたび装いも新たに『ラブレター新版』『ラブレター 10周年記念版』そして『ラブレター・ストーリーズ』という3つのゲームとして再誕し、新たな可能性が広がっていきます。

 ここから始まる未来の歴史を、ぜひあなたも体験してみてください。

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『ラブレター』、10回目のお誕生日、本当におめでとうございます!

ここで作者であるカナイ氏から喜びのコメントが届いておりますので、ご紹介します。

10周年によせて

カナイセイジ

 実際に『Love Letter』を販売した当時のことは、印象に残っていることもありますし、もう記憶があいまいになっている部分もあります。

 当日のことはそれほど覚えていません。当時まだ浅草だった会場の、比較的入り口に近いところに座っていたかと思います。先に述べたような状態の物を封筒に詰めたものを30個程度と、その状態にすることができず、クリアファイルにカラー印刷した原稿と説明書を入れたプリント&プレイ・バージョンを20個程度用意したような覚えがあります。

 前日のゲーム会で少し話題になったこともあり、品物は割と早くになくなりました。それ以降は、旧作などを売りながらぼんやりしていましたが、そこに当時すでにヤポンブランドでお世話になっていた健部伸明氏が通りかかりました。彼はアメリカからの客人であるAEGのJohn Zinzer社長と、確かスタッフのMark Wooton氏を案内しているところでした。せっかくの機会ですし、時間のかかるゲームでもなかったので、その方々に簡単にルールを説明しつつ、立ったままで1ゲーム遊んでいただいたことは覚えています。それが後々の成功につながったのは、ひとえに幸運だったとしか言いようがありません。

 その日に何をして、どのように帰宅したかは、あまり覚えていません。前日、夜を徹して品物を作っていたこともあって多分疲れていたのではないでしょうか。誰かと打ち上げをして『Love Letter』を遊んだような、疲れから挨拶だけですぐ帰ったような、そんな感じでした。

 それからしばらくして、そのゲームは徐々に評判となり、店舗等からも注文を受け、正式に印刷完了したものを販売し始めました。封筒や封のためのシールを100円ショップで買い集め、 家族の助けも借りて、当時としては結構な数の同人版を作りました。その後、エッセンで成功を収め、『プリンセスワンダー』版を経て。単体での製品版が発行されることになりました。

ドイツエッセンでのサイン会

 制作についても、あまり確かなことはもう覚えていません。もともと、佐伯拓也氏によって発案された2010年の「500円ゲームズ」というプロジェクト(500円以下の制作費でゲームを制作して、500円でゲームを販売する)の終了後にも、個人的に同じ規格のゲームを、ゲームマーケット合わせで作り続けていたので、ある意味『Love Letter』も「締め切りに追われて出来上がった」とも言えます。16枚という制限の中で、1作目の『RR』(後の『RRR』)、2作目の『R』(後の『アールライバルズ』)と2人対戦ゲームを続けて作っていたので、今度はできれば3人以上で遊べるものにしたい、と思ったのは確かです。制作期間はおそらく2か月くらいで、テストプレイは在学中に所属していたサークルの後輩たちと数度、時間のかからないゲームなので1人回しもしたかと思います。色々とすんなり仕上がっていったので、自画自賛となってしまいますが、きっとアイデアが良かったのでしょう。

 こうして長い間このゲームが遊ばれ続けていることは、私にとっては望外の喜びであり、そして身に余る光栄であり、ただただその幸運に感謝するばかりです。私がゲームを作る理由である、「1人でも多くのかたに、少しでも楽しい時間を過ごしていただきたい」という願いを、このゲームは素晴らしい形で叶えてくれました。

 あれから10年、さまざまな社会の変化や、デバイスなどの進歩により、人々の暮らしかた、ひいては遊びかたもどんどん形を変えていっているように感じられます。そんな中でも変わらず遊んでいただけていることに感謝しつつ、今後もこのゲームの新しい魅力を提案し続けていけるように努力して参りますので、是非ともこのゲームをお手元に置いていただければ幸いです。