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4.22023
『オース』 デザイナーズノート その2
拡大したオリジン
前回は、『オース』の成立過程が複雑で、何年にもわたり多くのものの影響下にあったことをお話ししました。実は、この題材に関する作業が、ゲームとしてまとめられるかさえも不明瞭だったのです。
まあゲームにはなりましたよね。
さて、それら多くのオリジンを集めてなんとか整理してみようと思います。すでに触れたようにこれらは複雑であり、したがって今後の記事はこのゲームに関する書物一覧(ビブリオグラフィ)とゲーム一覧(ルドグラフィ)をお届けすることになります。
今回は、私の緩やかなインスピレーションと幅広い調査の流れに関して簡単に記してみようと思います。
子供のころ、遊んだゲームはほとんどが使い古しでした。
多くが古いもので完品ではありませんでしたが、それでも想像力をかきたてるには充分でした。当時のゲームに関して気に入っていることのひとつが、他のゲームの広告が載った小さなブックレットがたいてい付属していたことです。そんな広告のひとつで、私は『Imperium: Empires in Conflict – Worlds in the Balance』という名称のゲームを発見しました。
このゲームのふたつの特徴を憶えています。まずは非対称性で、まったく異なるふたつの勢力があるという点です。二つ目はさらに魅力的なもので、その非対称性が状況に適応して発生する点です。各ゲームプレイが集まって壮大なキャンペーンとなり、それが勢力のふるまいや目的を定めるのです。惚れ込んでしまいました。
私はちょうど『Dungeons and Dragons』を始めたばかりで、プレイするものをなんでもキャンペーン形式のゲームにしたくなっていました。ボロボロになった『Tactics II』のためのキャンペーンゲーム設定を作り、翌年に『Battle Cry』を入手すると、ルールバリアントのキャンペーンシステムを真っ先に導入しました。
大学でゲームデザインに正面から向き合った時、最初に取り組みたかったのはこのテーマでした。
最初にデザインし、プレイしたのは『Sion』というゲームです(2008-9年)。これは『オース』によく似たコンセプトを元にしており、プレイヤーは没落する帝国で不満を抱いた若者となり、自力で未来を切り開いて新しい帝国を打ち立てるというもので、その帝国が次のゲームの舞台となるのです。いいアイデアでしたが、あまりにも野心的で、調査不足でした。友人を説得して一緒にプレイしたものの、実際にゲームを最後まで終わらせたことがあるかどうかも不明です。数回のセッションの後で私は諦めてしまい、それがこのプロジェクトの終焉となりました。
図注:実家のガレージのどこかにこのゲームの唯一現存する実物が転がっているはずですが、BGGのデータベースにアップロードしないでくださいね。
ビッグゲームの背後にあるアイデアは伝染力があります。私は『Blood Royale』を追い求め、大規模ゲームを複数セッションに分けて行っている地元グループを探し回っていました。
そして2012年、小さな箱に入ったメキシコ史を題材とするビッグゲーム『Pax Porfiriana』に夢中になったのです。これはフィル(Phil Eklund)がSierra Madre Gamesを変革する一助となった小箱シリーズの一作目にあたり、不可解なルールに関してよく冗談のネタになっていますが、デザインそのものは他のEklund製品に比べて抑制のきいたものとなっています。
これの最大の特徴はカード群で、19世紀後半から20世紀初頭にかけての人物や技術革新、そして企業を表した200枚を超えるユニークなカードが含まれているのです。だから、箱は小さくても中身はぎっしり詰まっていたのです。
まあ実際、内容物が多すぎて内容物が小さな箱からよく溢れ出していました。実際に各ゲームで使われるのはこの一部のカードだけでした。バラエティーに富んでいるのはいいとしても、ゲーム店に行く途中、自転車のバッグの中で箱の中身がぶちまけてしまうのがどんどん嫌になってきました。そしてある時点で、全カードを持ち歩くのを止めたのです。カードの大部分を家に残しておけば、手早くゲームを準備できるし、箱を閉めるのも楽になります。たまに持ち歩くカードを入れ替えたものの、だいたいそのリストは一定でした。
さて、多くのプレイヤーがこのゲームのデザインをほめたたえていましたが、デッキのもつ大きな多様性に戸惑っていました。資金を生み出す企業(ゲーム内の経済の基盤です)がひとつも登場しないゲームもプレイできたのです。これはそれまでにない経験でした。
1、2回プレイすると、追加カードの特徴をとらえて戦略を修正するようになります。それが落ち着くと、新しいカードが何枚か追加されていきます。こうして生まれるメタゲーミングは甘美なものでした。デッキ全体には考察するに足る定常性がありながら、プレイヤーが次の一戦を求め続けるような充分な変化もあるのです。
この定常性によって、ゲームにいつも登場する「お馴染み」のキャラクターも生まれました。
「おい、アイダ・B・ウェルズがまた出てきたぞ、前のゲームじゃマルクス主義の新聞社の経営者だったけど今回は何をするんだろう?」
大型の歴史ゲームを1回だけ行うことに慣れていた身としては、これはゲームに対するまったく新しい考え方だったのです。
レガシーゲームのアイデアは好きですが、その実装形式はそうではありません。私が求めていたものは、ある対戦が次の対戦に影響を及ぼし、ゲームの物語を進めるのは最終的にはプレイヤーであるという自由な形式のキャンペーンゲームに近いものだったのです。
2017年にLeder Gamesで働くことになったとき、パトリックと最初に話し合ったことは彼が取り組んでいた『Path』という名前のゲームに関してでした。彼はあるゲームが次のゲームに影響を与えるオープンワールド形式のアドベンチャーゲームを作ろうとしていたのです。
私は、それまで数年の間に貯めていた1ダースほどの(ほとんどは)ナンセンスなアイデアを喜んでまくし立てました。これは素晴らしい話し合いでしたが、『Path』の制作はまだまだ先のことだったので話はそのままとなりました。
翌年の早い時期、『ルート』の開発を終えた私は、今後のゲームについてまた彼と話し合うことになりました。
そのうちのひとつは、簡素化した『ルート』に少し手を加えて、プレイヤーが現体制を維持するかひっくり返すかを競うレガシー形式のゲームでした。パトリックも気に入って、これをサイドプロジェクトとして進めるよう言ってくれました。
『Vast: The Mysterious Manor』の制作がひと段落すると、『オース』になるであろうゲームに割ける時間が増えはじめました。 この時点で私は落ち着いており、どんな印象を与えるゲームにしたいのか明確なヴィジョンをもっていました。ただ、どんな主題にしたいのか、どんな基本メカニズムが必要なのかに関しては何のアイデアもありませんでした。
『ルート 拡張 ~そびえる山のいきもの乱記~』を手伝うために数日ほど空けた後で日誌に戻り、過去の熱意に満ちた書き込みを眺めてから、私はシンプルな要約を記述しました―「現在の問題は視野(スコープ)である」。
この問題を解決するどころか、どうやって手を付ければいいのかを見出だすだけでも数か月を要するでしょう。
――Cole Wehrle 『オース』デザイナー日記より
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