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4.12023
『オース』 デザイナーズノート その1
■『オース』とは
『オース』のオリジン
『オース』は、物語性に対して私がもっていた不満、とでも言うべきものから生まれました。私は、壮大で複雑なストーリーをボードゲームで表現する方法に完全に満足したことがなかったのです。
ゲームで長いストーリーを物語りたいなら、普通は長大なルールとプレイ時間をプレイヤーに強いるか、さもなくばゲームの中心部分を簡潔に留めるために複雑さや物語を別に用意するメカニズムを用いるしかありません(いわゆる「イベントデッキ」のような手法がそのひとつに当たります)。または、レガシーゲームのようにゲームを進めるたびに小さなルールを追加していくことで、事前に物語の分岐を用意することもできるでしょう。
もっとも物語性に富むゲームとして私の頭の中にあったものは、進行の合図を適切に提供し、驚異に満ちたダイナミックなお話を作り出すのに必要な道具をプレイヤーに与えるものでした。しかし、そのようなゲームは疲れるものです。
それはつまり、そのデザインでは壮大な物語世界を広げることはできないということを意味します。
そして数年前、世代を経ながら物語を進めることができるゲームを作りたいと思い始めました。プレイヤーの感情を直撃するゲームです。複数の世代にわたるストーリーを語れるだけでなく、それを親しみやすいかたちで実現できるゲームです。
私は2年の間、この問題に時間を割いてきました。それまで手掛けたものの中で最も厄介な作業でした。そして去年の夏、セントポールの私のところに、兄弟のドリューと親友のチャズ(彼は『John Company』のディベロッパーでもありました)が訪れる機会があり、このゲームデザインがもたらす基本的問題と私の求めているものについていろいろと語り合うことができました。それによって、私は頭を整理することができました。彼らが帰った後で作業にとりかかると、新たなアプローチを思いついたのです。
そのゲームの基本的なアウトラインは、次のようなものです。
各プレイヤーはある社会の支配層に近い人物となります。帝国の役人、あるいは社会を揺るがそうとする余所者かもしれません。どちらにしても、プレイヤーは社会の支配層を自分の目的に合わせて導くか、あるいは支配者の地位を奪うのが最終的な目的となります。『オース』では、ひとつのゲームの結末とその到達方法によって、次のゲームの舞台が決まるのです。
命令系統の頂点にまで登り詰めて勝利し、社会が無政府状態に陥ったとしたら、次のゲームは無政府状態でスタートすることになり、そこでは前回のゲームで役に立った戦略は通用しないかもしれません。『オース』は因果関係のゲームなのです。
図注:このゲームに大きな影響を与えたものの一部(2018年8月撮影)。 ここに写っていないものも多く、重要なものについては今後の記事で詳しく触れる予定。
『オース』の記録方法に関して
『オース』は本質的にはキャンペーンゲームです。しかし、普通のキャンペーンゲームは、あらかじめ内容が決められた分岐が用意されているものですし、少なくとも明確なエンディングが存在しますが、『オース』にはそのどちらもありません。
その代わりに、プレイする各ゲームがその先のゲームの様相を変化させるのです。あるひとつの選択が、その後の何十回ものゲームに影響をもたらし続ける結果を生み出すかもしれないのです。
『オース』では、プレイヤーがどのようにゲームをプレイし、選択にどう適応したかを記録することでこれを行っています。テーブルゲームのデザイナーに与えられた限られた手段でも、この種のストーリーテリングに対応できるということが判ったのです。
『オース』においては、ひとつのゲームの進行過程が、基本的には少なくとも三種類の分野で後のゲームに変化を与えます。勝利条件、山札、そしてマップ(これはプレイヤーの能力と実行できるアクションにも影響します)です。
私がプレイしたあるゲームでは、プレイヤーは勝利するために国民の支持を争っていました。しかし途中で、プレイヤーの1人がある思想カードを獲得したのです。そのプレイヤーは巨大な軍隊を組織し(それによって支持は地に堕ちます)、辺境部を蹂躙し始めました。
支配者はこれに対応できず、送り込んだ兵力は熟練の騎馬弓兵と機動力のある部隊によって敗走してしまいました。まもなく共和国は崩壊し、帝国が樹立されたのです。
これによって、後日に同じセッティングで始める次のゲームでは、ゲームの様相が一変していることにプレイヤーは気付くでしょう。
かつての首都は廃墟となって時代の彼方に忘れ去られ、マップの中心には好戦的で徴兵制に支えられた新しい首都が建設されているかもしれません。遊牧民的な生活様式と軍事組織が生まれているかもしれません。そしてなにより重要な点として、ゲームの勝利条件が国土を最も支配する者が有利になるものに変更されていることでしょう。
こうして生まれた帝国は何世代も続くかもしれませんし、あるいは誕生と同時に滅亡するかもしれません。
次に起きることはすべてプレイヤー次第なのです。
私は、このゲームのひとつひとつが、ダイナミックで深い歴史を備えた完全な世界だとプレイヤーに考えてもらいたいのです。
『オース』は物事の変転を描いたゲームです。
歴史に埋もれること、そして、思い出されることのゲームなのです。
――Cole Wehrle 『オース』デザイナー日記より
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